初夏の果樹園より―タキグチフルーツガーデンさんのさくらんぼ・桃・ぶどう事情

少し前のことになりますが、6月上旬に山形県天童市のタキグチフルーツガーデンを訪ねました。
タキグチフルーツガーデンさんは、さくらんぼや「太陽のあかつき」「夏かんろ」といった桃、ぶどうなど、幅広くフルーツを栽培する農家さんです。

この日の気温は30度。テント越しにも伝わるジリジリと強い日差し。
「紅さやかの収穫がようやく終わったんですよ」と話す滝口さんご夫妻に、汗をぬぐいながら初夏の果樹園を案内していただきました。

果実に手をかけ、空を仰ぐ ― さくらんぼの畑より

ちょうど取材の前日まで、早生品種「紅さやか」の収穫が行われていたという滝口さんのさくらんぼ畑。取材当日は、主力品種「佐藤錦」の葉摘み(さくらんぼの実の色付きをよくするために、余分な葉を落とす作業)の真っ最中でした。

滝口さんのさくらんぼ畑では、主にミツバチが受粉作業を担っているとのこと。
園地を見回すとハチの巣箱が。でもよく見ると底が抜けている…?
「床が抜けて崩れちゃったんですよ。でもちゃんと住み着いてくれているから修理は後回し(笑)」

「まぁ無理やり住んでるんだけどね(笑)」と滝口さん 今にも崩れそうです…

今年は一つの樹で開花が2回に分かれ、最初に受粉した実と、あとから受粉した実が混在する珍しい現象が起きたのだそう。
「枯れて落ちるかなと思っていたんだけど、結構ちゃんと育ったんだよね。実の大小はあるけれど、どっちも味はいいんですよ。」

タキグチフルーツガーデンさんでは、基本「ガラもぎ(※樹1本まるごと収穫する方法)」で収穫をしているとのこと。
今年は収穫のタイミングが難しい、と話していました。

昨年ほどではなかったものの、2025年も双子果のさくらんぼは多かった山形県
滝口さんのさくらんぼ畑の樹にも双子果が実っていました

昨年、山形県内全域で起こった高温障害を受けての対策を伺うと
「作り方はいつも通り。でも今年は反射シート(※さくらんぼの実がまんべんなく色づくように樹の下に敷くシート)をなくしました。やっぱりあれがあると高温になっちゃうので。」とのこと。

確かにこの時期のさくらんぼ畑で見られる反射シートはなく、地面には緑が生い茂っていました

露地栽培のさくらんぼもあるという滝口さんのさくらんぼ畑。

露地栽培は屋根がないので、農家さんの作業負担や設備投資が少なくて済むのですが、鳥に食べられたり雨で実割れをするリスクが高く、栽培している農家さんは少数。滝口さん曰く「生産者側からみるとギャンブルみたいなもの。うまくいく年もあればダメな年もある。」

色づきよりも時期を重視し、6月上旬頃には収穫してしまうのだそうです。

露地栽培のさくらんぼ畑 テントがないので鳥害も雨による実割れも避けられなさそうです…

ところで1年のなかで最も忙しい6月。
さくらんぼ農家さんたちはどんな生活をしているのでしょう?

「本当に忙しい時期は、朝5時から収穫していますね。朝ごはんや休憩をはさみながら、収穫は長くても10時半ころまでかな。」
「さくらんぼを詰める人は、収穫と並行して作業しています。」
「詰め作業ってみんながみんなできるわけじゃないんですよ、特に職人詰めは。うちで職人詰めができるのは1人だけかな。」

「収穫が終わったあとは葉を摘んだり、別の園地で作業をしたり。17時ごろには終了するかな。」

「昔は日が暮れるまで…みたいな時代もあったけど、今はしませんね。といっても12時間労働ですが(笑)でも忙しい時期だけなんでね。」

園地の中には小さな冷蔵庫があり、冷たい飲み物を入れているのだとか。
休憩時はコンテナをひっくりかえし、イスとテーブルの代わりにしているそうです

せっかくなのでさくらんぼ農家さんの ”あるある” の真相についても聞いてみました。

山形県内でさくらんぼ栽培がさかんな地域では「6月になると眼医者・歯医者は暇になる」「冠婚葬祭、特に結婚式(ジューンブライド)は避ける」と聞いたことがあるのですが…これって本当?!

たぶんそう(笑)農家さんだけじゃなく、お手伝いに来てくれる人も来られなくなっちゃうからね。

「さくらんぼ始まる前に美容院行ってくるは~(※行ってくるね、の意)」とかよく聞きますよ。

さくらんぼ農園でお昼をするとき、ラーメンの出前を取るって話も聞いたことあるんですが…

ラーメンの出前ですか!?ここに!?
いや~涼しいところで食べたいかな(笑)

小休憩用に園地に小さな冷蔵庫をおいて、冷えた飲み物を飲めるようにはしているようですが、暑さ厳しい初夏の外仕事。体力勝負だからこそ、お昼休憩は涼しいところでゆっくりしたいですよね…^^;

「農家事情に詳しいですね」と思わず笑いが起こる場面も

一番美味しい“旬”を逃さぬよう、さくらんぼと共にある生活を送る農家さんたち。
進む高齢化や近年の高温障害なども相まって、栽培を辞める農家さんも少なくないのだそう。

さくらんぼ農家さんにとって厳しい状況下にありながら、それでも家族や農園スタッフのチームワークで1日に数百キロのさくらんぼを収穫し、箱詰めして、お客様のもとへと届ける――
「大変だ」と零しながらも、待っているお客様のためにと工夫を重ねて渾身の一粒を育てあげた農家さんたちには本当に感謝の想いでいっぱいです。

タキグチフルーツガーデンさんの桃(2024年7月取材時)

かすかな香りと手のぬくもり ― 桃のこと

さくらんぼシーズンが落ち着いてほっと一息…とはならないのがタキグチフルーツガーデンさん。初夏~秋にかけての果物の栽培も同時に行っています。

桃は滝口さんの園地のなかでは一番広く、1.7町歩(1.7ヘクタール)の面積があるとのこと。随分広いんですね!と驚いたスタッフに「桃は案外、少人数でも面積こなせるんですよ」と滝口さん。
多い日で1日150コンテナほど収穫することもあるのだそう@@
タキグチフルーツガーデンさんでは収穫した桃をすべて箱詰めにしているので、その作業時間も考えて収穫をしているのだとか。

どのくらいの品種を植えているんですか?と訊ねると
「ちゃんと収穫できるのは10種類程度かな。あかつきとかの早生からさくら白桃とかの晩生桃までさまざまです。」「年々栽培面積を増やしていて、新品種の若木も植えているから本当はもっといっぱいあるんですよ。だんだん名前も覚えられなくなってきましたけど(笑)」と滝口さん。

これだけたくさんの品種を育てている滝口さん夫妻。好きな桃は?と訊ねると滝口さんは「袋掛けをしていない黄金桃!」とのこと。
黄金桃といえば、清川屋で販売している黄金桃も含め、袋掛けをして育てられた美しい黄色の桃が一般的。袋を掛けなくても育てられますが、果皮が赤みを帯びるため、市場価値としては袋掛けをしたもののほうが高いのだとか。
「個人的には袋を掛けないほうが自然体で、味も香りもいいと思うんですよね」

袋掛けして育てられる桃の様子。1玉1玉かけるので非常に手間がかかります。

さくらんぼは収穫したタイミングが一番美味しいと言いますが、そういえば桃はどうなんでしょう?

「桃は追熟しますよ。収穫するタイミングは少し硬めじゃないといけないんです。柔らかいと配送時にぐちゃっとなってしまうので。」

「届いたら好みの硬さになるまで待ってもらって食べるのがいいですね。
早く食べるとカリカリぱりぱり系の桃も、1週間くらい待つとちょっと柔らかくなって、甘く感じます。柔らかい食感がお好きなら、届いてから少し待ってもらうといいかもしれませんね。」

「晩生種の桃(さくら白桃など)は硬い品種が多いんです。日持ちはするので、様子を見ながらお好きなタイミング(柔らかさ)で召し上がってみてくださいね。」

2024年に取材した「山形の桃」ブログもぜひご覧ください! 》

まだ見ぬ味を育てる ― ぶどうにかける夢

訪れた6月上旬は、実はぶどう栽培にも手がかかる時期。さくらんぼの収穫と詰め作業の傍ら、ぶどうのジベレリン処理(種なしぶどうを育てるための工程)や摘粒も行っていらっしゃいました。

タキグチフルーツガーデンさんのぶどう畑は1.5反歩(15アール)くらい。主にシャインマスカットを栽培されているとのことですが…

「今年、富士の輝(ふじのかがやき)をどーんと植えたんですよ!」
「それから雄宝(ゆうほう)も。UFOじゃないですよ(笑)」
富士の輝も雄宝も、シャインマスカットと掛け合わせた新しい品種とのこと。
天童ではぶどうを育てている方が少なく、情報収集は長野や山梨といったぶどうの名産地から、YouTubeにまで及ぶと言います。
どちらもまだ栽培し始めたばかりで収穫には至っていない若木ですが、「この品種が当たるかも!?」と夢をのせ、手入れをしているそうです。

実はぶどうはさくらんぼの最盛期と作業が重なるため、時間や人手のやりくりが大変。それゆえに、さくらんぼ農家さんはぶどうを育てないことも多いのだそう。
「正直いまはぶどうに追われてます(笑)」と笑って話す様子は、まるで果実たちとの“今”をまるごと楽しんでいるようでした。

フルーツと向き合い続ける一年
奮闘の時期はまだまだ続きます

複数のフルーツを栽培するタキグチフルーツガーデンさん。
もともとはさくらんぼ、ラ・フランス、りんごを栽培する農園だったそうですが、滝口さんが加わってから桃とぶどうの栽培もはじめたのだそう。

それぞれの果物で作業のピークが重なることもあり、日々のスケジュール調整は大変とのこと。それでも「どれかひとつがうまくいかなくても、ほかでカバーできる」という言葉に、栽培の現実と前向きな姿勢が重なります。

40歳にして4人のお子さんを育てながら果樹園を守る滝口さんご夫妻。「子どもたちに遊んでもらえなくなって。今年、犬を飼い始めたんです」農作業と子育ての合間に、ふっと見せてくれたそんな言葉に、暮らしの温度がふわりと伝わってきました。

桃にぶどうに、果物と共に奮闘する季節はまだまだ続きます。
みずみずしい実りが、今年もたくさんの人を幸せにしてくれますように♪