山形県上山市、蔵王連峰を望む地に「のら農園」はあります。
代表の酒井正樹さん(46歳)は、かつて東京でレディースのアパレルブランドを経営していたという異色の経歴の持ち主。


「農家歴10年経ちますが、実は今でも虫やヘビは大嫌いで、本当は農家なんてしたくなかった(笑)」
そう冗談めかして語る酒井さんですが、そのドライフルーツ作りにかける情熱は、まさに「職人」そのものでした。
スコップ一本から始まった「稼ぐための農業」
酒井さんは、18歳で東京でレディースアパレルメーカーに勤務した後に、山形でアパレル経営をし、その後36歳で就農しました。
「家族を養うために一番稼げる仕事は何か」を突き詰め、一番可能性を感じたのが農業でした。もちろん知識ゼロ、機械ゼロ。スコップ一本で2,000本のナスを植えることからスタートした酒井さんは、アパレル時代に培った「数字を読み、ニーズを掴む力」を武器に、独自の道を切り拓いていきます。
スーパーや産直への直接販売などをはじめ、野菜から米へと、数年をかけて徐々に売り上げを伸ばしました。その過程で増えていった野菜の規格外や売れ残りを持て余し、とにかく何とかしよう、と購入したのが一台の乾燥機でした。

はじめはまったく売れなかったドライ野菜も、デザイナーを入れてパッケージデザインを見直したり、販売場所を開拓することで徐々に売り上げを伸ばしていきました。
「捨て値」の果実に価値を吹き込む
農業を続ける中で目にしたのは、味は抜群なのに、少しの傷やサイズの違いで「規格外」となり、1キロ数十円という、二束三文で売られていく果物たちの姿でした。

「もったいないんで、市場の何十円レベルで売られるより、自分が3倍ぐらいの値段しか出せないけど、取りに行くんでって言って、売ってもらったフルーツでドライフルーツを作ってみたのがきっかけなんです。それが売れ始めたんで、じゃあこれはいけるぞと。」
とはいえ、規格外品は農家さんによって量や質もバラバラです。酒井さんは自ら1軒ずつ農家を回り、信頼を築いていきました。今では上山市を中心に7〜8軒の農家から、年間約15トンもの果物を仕入れています。
「実際に、その果物で作ったお菓子を持っていくと、すごく喜んでくれるんですよ。その農家さんたちが家族や知人に紹介してもらったりして、ありがたいですね」
「素材は上山産、加工はすべて自社内」 これが酒井さんの譲れないモットーです。
15トンの果実と向き合う、狂気的なまでのこだわり
のら農園のドライフルーツを食べた人は、その「食感」と「濃厚な甘み」に驚きます。そこには、酒井さんの並外れた手間暇が隠されています。

■「手切り」へのこだわり
リンゴやラ・フランスのスライスは、すべて酒井さんが手作業で行います。機械を使えば2割出てしまうロスを無くすため、そして「皮の近くが一番美味しい」という信念から、皮を絶妙に残して切り分けます。
■「パリパリ」を復活させる二度乾燥
ドライフルーツは時間が経つとどうしても湿気を吸ってしまいます。のら農園では、袋詰めする前にもう一度乾燥機に入れ、食感を「復活」させてから出荷します。
■さくらんぼ20万粒の種抜き
旬の時期には、6トン(約20万粒)のさくらんぼを、5〜6人で3週間かけてすべて手作業で種抜きします。気が遠くなるような作業ですが、これが「最高のお菓子」の土台となります。
酷評を力に変えた「チョコレートドライフルーツ」
大人気のチョコレートがけシリーズにも、忘れられない物語があります。発売当初、「パッケージは素敵なのに、チョコが美味しくなくて残念」という厳しいメールがお客様から届きました。
普通なら落ち込むところですが、酒井さんは即座に反応しました。「長く愛されるものを作るなら、チョコも本気で選ばなきゃダメだ」と決意。すぐに30種類のサンプルを取り寄せ、納得いくまで試食を重ねました。そうして辿り着いた今のチョコレートは、ドライフルーツの酸味と完璧に調和し、コンテストで最優秀賞を受賞するほどの看板商品となりました

「所詮、農家でしょ」とは言わせない
酒井さんのルーティンは過酷です。朝7時半から深夜23時まで、乾燥機を回し、検品し、商談をこなす日々。冬の間も休むことなく果実と向き合います。
「農家だからって、甘く見られたくない。一次産業を大切にしながら、加工でも結果を出す。農家の意地ですよ」と語る酒井さん。
アパレル出身ならではの洗練されたパッケージと、泥臭いまでの現場主義。「のら農園」のドライフルーツ一袋には、山形の豊かな実りと、一人の男の熱いプライドが凝縮されています。また、ドライフルーツを用いた菓子「さくらんぼサンド」「プレミアムさくらんぼアイスケーキ大福」を次々と開発し、こちらもコンテストを受賞するなど益々勢いを増しています。
「うちの商品は、常に女性目線でコンセプトを考えています。これは、自分がアパレルのレディースをやっていた経験が大きいですね。女性と家族をターゲットに『どうやったら女性が喜ぶか』を考えて味もパッケージも考えるんです」
一度噛みしめれば、その違いがきっとわかるはずです。


