【取材レポート】幻の餅米「酒田女鶴」を守り続けて…“女鶴もち”のマルエンさんを訪ねました。

12月に入り、庄内地方も冬の気配が色濃くなってきました。 お正月に向けて恋しくなるものといえば、やっぱり「お餅」ですよね。

清川屋でも長年愛され続けている、きめ細やかでコシのある「女鶴もち」。
今回は、その生産者である酒田市円能寺(えんのうじ)地区の「㈲マルエン(円能寺もち加工組合)」さんの作業場に訪ね、美味しさの秘密と、知られざるご苦労を伺ってきました。

一年通して販売中!マルエンさんのお餅作り

「㈲マルエン(円能寺もち加工組合)」さんの創業は1987年(以下、マルエンさん)。 発足当時はガレージ(車庫)でお餅を作っていたそうで、現在の工場が建ったのは30年前とのこと。清川屋とは20年以上前からお取引させていただいていますが、それよりも長くこの工場で歴史が刻まれています。

工場内の作業場を訪ねると、お餅特有の甘くふくよかな香りが漂う中、皆さんが黙々と作業を進めていました。

左から 佐々木寛司さん、佐藤和久さん(マルエン代表)、佐藤勘一さん、佐藤久子さん、佐々木清子さん

取材当時にお話を伺ったのは、代表の佐藤和久さんをはじめとする5人の皆様。 普段は円能寺地区の農家ご夫妻など6~8名で作業を行い、繁忙期には近所の方々の協力も得ながら製造しているそうです。

製造のピークは、もち米の収穫を終えた冬の季節。 ですが、農繁期以外であれば注文ごとの「受注製造」も承っており、通年で営業されています。

ラインナップはお餅だけでなく、「お赤飯」や手包みの「大福もち」、5~6月限定の地元のヨモギを使った「草もち」なども。 マルエンさんが手がける大福や草もち、どれも間違いなく美味しそうです……!
魅力的な商品のお話にも惹かれつつ、まずは「女鶴もち」の作り方について詳しくお伺いしました。

伝説の番組『どっちの料理ショー』で一躍有名に

「女鶴もち」に使用される幻の餅米「酒田女鶴」は、20年以上前に放映されていた人気テレビ番組『どっちの料理ショー』で「特選素材」として紹介されたことを覚えている方もいらっしゃるかもしれません。
当時、テレビ局のスタッフが2日間泊まり込みで取材を行い、「酒田女鶴」を使用した“お赤飯”が見事大勝利!その美味しさが全国に知れ渡りました。

前日準備から乾燥まで…「女鶴もち」の作り方

「女鶴もち」を作るには前日準備を含めて、大きく分けて6つの工程があります。
そして、この日は朝6時から作業していたようです。
「随分早朝からですね!」と驚いた清川屋スタッフでしたが、佐藤さん曰くこれはまだまだ序の口。製造数が増えていくにつれて、作業開始時刻が5時、4時と早くなっていくそうです……(゚Д゚)
そんな「女鶴もち」を作る工程は以下のようになります。

STEP.0 もち米を研いで 浸水

前日準備。翌日に使うもち米を研ぎ、一晩浸水させます。

STEP.1 乾燥が終わったお餅の袋詰め

朝一番に、既に成形と乾燥が終わったお餅をシーラーを使って袋詰め。一袋ずつ手作業で行います。

STEP.2 もち米を入れて 蒸かす

「STEP.0」で浸水させていたもち米を、せいろに入れて 、30分蒸かします。

STEP.3 蒸されたもち米をつく

蒸されたもち米を、専門の機械である「全自動餅搗器」で5分間つきます。

STEP.4 もちを成形する

もちを丸く成形する機械に入れ、押し出します。

STEP.5 板に乗せていく

手に付かないように、植物油(固形)を塗りながら、板に乗せていきます。(1枚につき最大44個乗ります)

STEP.6 乾燥させる

一昼夜(二晩)、室内で自然乾燥させる。

作り方を伺いながら作業場を見渡してみると、蒸し器用の換気扇以外、工場内には空調が見当たりません。
なんでも、お餅を乾燥させる際に風が当たってしまうと、表面にシワができてしまうのだとか!
「発足当時はまだ手探り状態だったから、ガレージで作ったお餅を外に干したら、シワシワになっちゃってねぇ(笑)」
と、佐藤さんは笑って話してくださいました。

その苦い経験を教訓に、現在はあえて空調のない環境で自然乾燥させているそうです。 おかげで工場内は、夏は蒸し暑く、冬は極寒! 冬場はモコモコに着込んで作業されているのだとか。
これもすべて、ツヤツヤで真ん丸な美しいお餅を作るため……。その職人魂には頭が下がりますm(__)m

盃一杯の種から始まった、奇跡の餅米「酒田女鶴」

※画像はイメージです

手間暇をかけて作られる「女鶴もち」ですが、本当に大変なのは、実はその前段階。「もち米の栽培」そのものにありました。
かつてこの地域には、非常に美味しいけれど栽培が難しい「本女鶴(ほんめづる)」という、まさに「幻の餅米」が存在していました。 その種を大切に守っていたのが、生産者の堀さんです。

転機が訪れたのは、マルエンの皆さんが堀さんからわずか「盃一杯分」の種を譲り受けた時のこと。 その小さな種から何年も研究を重ね、ついに誕生したのが新品種「酒田女鶴」でした。

「栽培の苦労については、彼に聞くのが一番だよ」
と、 代表の佐藤和久さんにそう紹介されて登場したのは、実際に酒田女鶴を栽培している佐藤勘一さん。 実は、清川屋の女鶴もちは、ほぼ勘一さんが育てたもち米を使っているそうです……!
日頃の感謝を込めつつ、詳しいお話を伺いました。

美味しさと背中合わせのリスク

女鶴もちに使用するもち米「酒田女鶴」を栽培している 佐藤勘一さん。

酒田女鶴の栽培方法は、基本的には他のお米(うるち米や他のもち米)と同じです。 しかし、決定的に違うのが「肥料の量」。なんと通常のお米の半分ほどしか入れられません。

肥料をたくさんあげれば、実は太り、美味しくはなります。しかし、酒田女鶴は背丈が高いため、実が重くなるとすぐに頭を垂れて倒れて(倒伏して)しまうのです。 稲が倒れると、地面について枯れやすくなったり、病気になったり、鳥や虫の被害に遭いやすくなってしまいます。
「肥料が少なすぎると美味しくならない。でも多すぎると倒れる」
このギリギリの見極めが、美味しい女鶴餅を作るための生命線となっているようです。

佐藤勘一さんが個人的に所持している、「酒田女鶴」にかかわるスクラップファイルも見せてもらいました。

また、近年は気候変動の影響も受けています。
例年4月下旬~5月上旬に種をまき、5月に植え始めますが、最近は4月後半でも気温が高くなる日が増えました。
そして、まだ種の段階で気温が高すぎると、稲が焼けてしまったり、害虫が繁殖しやすくなったりと、スタート時点から育てにくさを感じているそうです。

どんなに気をつけていても、強風が吹けば倒れてしまうことも……。 田んぼ一反あたりの収量は約420kgと、他のお米に比べるとやはり少なめです。
(全国平均で田んぼ一反あたりの収穫量は約480〜540kg)

収穫量も少なく、倒伏のリスクがあり、コンバインで刈り取るのも一苦労。
「労力と収量だけを考えれば、女鶴よりも別の米を作った方がいいんだけどね……」 佐藤さんはそう苦笑いしますが、

「それでも、『女鶴』を待っている人がいるから」

その一言に、生産者としての誇りと、お客様への深い愛情を感じました。

「幻のもち米」を、未来へ残すために…マルエンさんが掲げる目標

先代からマルエンを引継ぎ、30年はお餅作りに関わっている佐藤和久さん。好きなお餅の食べ方は磯部やきな粉、砂糖醤油…どう食べたって美味しい♪

マルエンさんの工場は、お客様はもちろん、地域とのつながりも大切にしています。 地元のイベントに参加したり、とある会社さんから「つきたてを昼食に食べたい!」という熱烈なオファーを受けてお届けしたりすることもあるそうです。

また、学校給食などへの定期的な卸しはありませんが、先日、地元の小学校の職場見学で訪れた子供たちに、きな粉を用意してお餅を振る舞ったところ……
「何もつけなくても美味しい!」
と、パクパク食べ進めてくれたのだとか。「子供たちの素直な反応が嬉しかった」と、従業員の皆さんは顔をほころばせていました。

そんな地域に愛されるマルエンさんですが、置かれている環境は決して平坦な道のりではありません。 円能寺地区の世帯数は、かつての17軒から現在は14軒に減少。そのうち農家は半数ほどです。 軒数の減少に伴い、どうしても生産数は減らさざるを得ません。後継者がいらっしゃるお家もありますが、未定のお家がほとんど。Uターンや兼業で継いでくれる若い世代がいるかどうか……。

「こう言っちゃダメなんだろうけど、10年後はどうなっているかわからねの~」
ぽつりと漏らした言葉に、過疎化と高齢化が進む中山間地域の切実な現実が垣間見えました。

最後に清川屋スタッフと記念撮影!

資材や米の値上がり、そして何より「人」と「もち米」の確保が年々難しくなっている今。 大きな野望よりも、マルエンさんが掲げる目標はシンプルで、そして重みのあるものでした。

「まずは、この『女鶴もち』を無くさずに残していくこと」

特別な宣伝活動はしていませんが、食べた人が「また食べたい」と思い、その美味しさが広まっていくことで、知名度も上がっていけばいいなと願っていらっしゃいます。
10年後もこの味が食べられる保証は、どこにもありません。 だからこそ、今、農家の皆さんが懸命に守り育てているこの「女鶴もち」の存在は、より一層尊く感じられます。

生産者の皆さんの想いと、円能寺の風土が育んだ、混じりっけなしの「本物」のお餅。
ぜひ今年のお正月は、その一粒一粒に込められた物語と一緒に、じっくりと味わってみてください。

この記事で紹介した商品はこちら

女鶴もち

シルクのような光沢と、ふんわりと柔らかな食感。幻のもち米「女鶴」は粘りが強く驚くほどの伸びが特徴で、栽培の難しさから一度は途絶えかけましたが、3年に及ぶ研究の末に復活しました。明治時代に皇室に献上されたこともある上品な甘みは、一度食べたら忘れられない究極のお餅です。

recommend_img